コラム

Column

蹞訪 ~株式会社TAS ART 田崎新二さん~

知人の社長様へインタビューをさせていただく「蹞訪」 第2回です。

第1回の「乳菓子屋株式会社 佐藤憲史郎さん」はこちらから

クライアントやパートナーなどの、いわゆる取引先かどうかではなく、私が「この人の話を聞いてみたい」と思った知り合いの社長さんへ色々と質問をぶつけさせてもらい、そこから学びを得ていくという完全に岡村得な企画「蹞訪」(”きほう”と読みます)です。当社の企業理念でもある「蹞」(ひとあし)は、そういう小さな1歩を大事にしようという想いがありますので、「どうやって事業を成長させたか」というサクセスストーリーよりも、「明日からこれを自社でもやってみよう」と思えるくらいの小さな、細かい取り組みにフォーカスした記事にしていきたいと思います。

さて第2回ですが、まだ1回目のコラム公開の前に書いているということもあり、第1回の反響がどうなっているのかはドキドキです。

 

第2回目のゲストは、、、

第2回目には、株式会社TAS ARTの代表取締役 田崎新二さんにご登場いただきました。

 

<企業概要>

菊陽町津久礼にてWebサイトの制作やWebシステムの開発・運営・管理などを事業として行っています。2006年設立。県立劇場の予約、催事の管理、駐車場などのシステム開発など公共施設の案件も手掛けられています。第1回の佐藤社長と同じ年ということもあり、第2回目にご登場いただきました。

 

<従業員数>

役員 4名(うち、社外取締役3名)

社員 7名

 

<岡村との関係>

弊社クライアント様のWebサイト制作を担当しておられ、弊社では補助金をサポートしていたところから、ご縁がありました。私が創業してから、「熊本中小企業家同友会」や「熊本創生企業家ネットワーク」などの勉強会に参加してますが、田崎さんもどちらにも参加されており、色々とお話を聞かせていただくことが増え、聞けば聞くほど色々と学ばれていてすごいな、と思ったので満を持してインタビューさせていただきました。

 

 

お題:社員の育成に関して取り組んでいること

まずは、株式会社TAS ARTの創業の経緯からお聞かせいただけますか?

田崎 「ちょうど私が生まれた1977年からスターウォーズがシリーズとして始まったのですが、Part2を映画館で見た時にすごく感動したんです。そして映画にCGが使われていることを父から聞き、自分もやってみたいと思いました。大病や大怪我をしてお医者さんに助けてもらって、医療の道を志す感覚と同じですよ。その後、父がPCを買ったので色々と触ってみたら面白くて。向いていたんでしょうね」

岡村 「ざっくり”コンピューター系の仕事がしたいな”という感じだったんですね」

田崎 「そうですね。その後、システム系の会社に入社しましたが、下請けの仕事も多かったですし、もっとエンドユーザーに近い仕事がしたいなと思い、TAS ARTを創業し、Webの仕事へ少しずつシフトしていきました。創業した年の4月から有限会社が作れなくなったので、最初から株式会社にするしかなかったのを思い出しますね~。しかもその時、周りに経営者の知り合いがいなかったので、自分で勉強して登記もやりました。」

岡村 「そういえば、社外取締役が3名いらっしゃる理由って何なんでしょうか?」

田崎 「独りよがりの経営にならないように、最初の段階から外部の方と経営をしていこうと思いました。四半期に1回、報告会をしています。」

 

では、将来のビジョンをお聞かせください。

田崎 「まず、クライアントの課題解決ではなく、社会問題に対する解決策をいかに提示していくかが企業に求められていると考えています。中小企業のICT部門の伴奏者となれるようにしたいですね」

岡村 「社会問題への解決策に、伴奏者、、、、ですか。弊社も伴走型のマーケティングを事業の核としているので、すごく気になっているのが、”伴走”ではなく”伴奏”である理由です」

田崎 「創業のきっかけにもつながるのですが、映画や甲子園って見てる人に感動を与えると思うんですよ。ただ、システムが完成してクライアントさんが感動するか、というとそうじゃないなと。会社名に”ART”と入れているのも、クライアント企業のICT部門を外注してもらう立場として、芸術や音楽などと同じように、感動を与えるような会社にしたいという思いです」

岡村 「うわーーーー、綺麗に伏線を回収していただいて!! ところで、社会問題への解決策、という話なのですが、そのように考えられたきっかけは何だったんですか?」

田崎 「2年前、シカゴに行った時に、打ちのめされたんですよ。いわゆる日本的な文化である朝礼や残業などはほとんど無くて、仕事をさっさと終わらせてホームパーティーしてるんですね。もっと広い視野で経営をしないと、と思いました。例えば、いま日本で起きている少子高齢化の問題については、近い将来で中国やインドで引きおこるとされています。日本の社会問題に対する解決策が提示できるのであれば、同じことが起きている海外でも勝負できるのでは、と思っていますね。情報インフラの進歩により、海外と日本の垣根がどんどん無くなってきていて、外資系の企業も日本に進出しています。鎖国的な発想で経営をしていたら、海外の企業から見たときに、『”ちょんまげ”をつけている経営者』なんて見られ方にもなるかもしれないですね」

 

ではそのビジョンの実現に向けて、どんなことを課題に感じていますか?

田崎 「ビジョンを実現するとしたら、その過程で人数は今の3倍くらいにはしたいと考えています。その為には売上が必要ですし、売上を増やす為には社員の成長が不可欠です。将来的にはピラミッド型ではなく文鎮型の組織図にしたいと思っていますので、課題としては、社員はもっと深く広く考えることができるようになってくれたらいいなと思っています。その環境を作ることが自分の課題でもあるのですが」

岡村 「やはり、代表者含めて人の成長は組織の成長には欠かせないですよね。その他に課題はありませんか?」

田崎 「ビジョンも大事ですが、ミッションとパッションも重要だと思います。社会問題という大きな課題に向かっていくには、それに対する使命感や情熱など”人の想い”が無いと成し遂げるのは困難だと思うんですよね。mustではなく、want toで進めていかないと推進力が弱いなと。やはり、それはリーダーがどれだけ発信できるかにかかっていると思うんです。Microsoftでは、ビジョンの発表会を有名アーティストを呼んで開催していますし、SONYは”原型を作ろう”という共通の想いがあるそうです」

 

その課題に対し、取り組んでいることを教えてください。

田崎 「社員1名ずつに”ビジョンカード”というものを作ってもらいました。『どんな自分になりたいか』を文字だけではなく画像なども使って可視化しすることで、目標を設定してもらいます。また各自の得意分野を伸ばす為に研修や勉強会への参加も促しています。強みを作る事でまず自分で自分のことを認めることができますし、そうなると相手(他の社員や取引先)の事も受け入れられるようになるんじゃないかと。そして、それをアウトプットする場として社内での勉強会を週に1度開催しています。各自で10分間くらいシェアをしてもらうのですが、アウトプットするために勉強することや、アウトプットが人の役に立つことで次のインプットへのモチベーションにつなげるのが目的です。」

岡村 「さすが、次々と取り組みが出てきますね。では、今までで失敗した取り組みはありませんか?」

田崎 「生産性を高めようと思って、一人ひとりの業務を細分化して報告書の提出をしてもらっていた時期があります。しかし、生産性に対する”圧”が強すぎたのか、あまり上手く機能しませんでした。6~7ヶ月くらい継続しましたが、辞めました。あとは、シカゴから帰って朝礼を辞めてみました。やはり、何かが嚙み合わなくなりましたね。朝礼を再開した今は、その”何か噛み合わない感”はありません。学んだことを実践するときは、ルーティン化できるまで、業務の一部としてリズムが出来るまでには摩擦係数が大きいので、我慢も必要です。しかし、リズムの一部となり、ルーティン化できたのに上手くいかなかった時には捨てる勇気も大事かな、というエピソードですね。」

岡村 「今回のお題は『社員の育成に関して取り組んでいること』なのですが、ミッション実現の為の課題に対する取り組みがそのままつながっていますね。他に、何か取り組んでいることがあったら教えて下さい。小さいことでも構いません」

田崎 「例えば、社内でのコミュニケーションツールとして”チャットワーク”を使用していたのですが社員からのアイデアで”Slack”に変えました。こういう小さい改善のアイデアに対しては、食事券をあげるなどで、評価するようにしています。また、『実れ、夢実現ボード』(下の写真を参照)というものを作り、自分の夢や実現したいことを書いて貼ってもらうようにしています。あとは経営指針を自社なりにアレンジしたものにして社員に伝えています」

 

【実れ、夢実現ボード】

 

 

熊本マーケティング研究所に対して一言頂きました。

岡村 「せっかくの機会なので、我が社にも何か一言いただけたらと思います」

田崎 「弊社でもマーケティングを勉強してみましたが、奥が深くて専任の社員を雇うより専門家と提携した方が良いと思っています。マーケティングって、ファネルとかナーチャリングとか難しい横文字が並ぶイメージで、苦手な経営者は食わず嫌いになっている気がします。そんな難しい言葉でも分かりやすく説明してくれるような、そんな会社になって欲しいと思います」

岡村 「確かに、、、、アメリカで生まれた学問なので日本語化が難しいですが、それは弊社にとっても顧客獲得のヒントになるかもしれませんね。」

田崎 「あと、先ほど少し経営指針の話をしましたが、”経営指針を創る会”に知人の経営者を誘っても、『うちはまだそんな段階じゃないから』と言われることがあるんですね。もしかすると、マーケティングも同じかもしれないと思っています」

岡村 「めちゃくちゃ納得の意見です。むしろそういう会社ほどマーケティングで経営が改善されることってあるのですが、謙遜というか、何というか、依頼のハードルが高いのはあるかもしれませんね、、、!!」

※『経営指針を創る会』 … 熊本中小企業家同友会で開催されている、経営指針書を創る為のプログラム

 

感想

周りにいる経営者さんから「田崎さんは凄いよ」とよく聞いていたのですが、噂に違わぬ方でした。たくさんのことを学び、たくさんのことを実践し、PDCAサイクルを回して良いものは残し、上手くいかなかったことは辞める、という取捨選択をされています。お手本のような、というとご本人は謙遜されると思いますので、”ベンチマークのような経営者さんだ”と感じました。別件ですが、今年の4月9日に開催される弊社主催の勉強会の講師も快く引き受けて下さり、感謝しっぱなしです。ここで詳細を書くことは控えますが、弊社のビジョンに対してもシステム面から伴奏者となっていただくことができたら、きっと実現できるなと勇気を貰えました。

最後に、年末のお忙しい時期(取材は2021年12月末に行いました)に、話が楽しくて色々と聞き過ぎたせいで3時間超の滞在となってしまった僕を、業務の手を止めて、立ってお見送りして下さった社員さんと田崎さんに感謝して、結びたいと思います。