知人の社長様へインタビューをさせていただく「蹞訪」 第3回です。
第1回の「乳菓子屋株式会社 佐藤憲史郎さん」はこちらから
第2回の「株式会社TAS ART 田崎新二さん」はこちらから
「この人の話を聞いてみたい」と思った社長さんへ色々と質問をぶつけさせてもらい、そこから学びを得ていく企画「蹞訪」(きほう)。当社の企業理念でもある「蹞」(ひとあし)は、そういう小さな1歩を大事にしようという想いがありますので、「どうやって事業を成長させたか」というサクセスストーリーよりも、「明日からこれを自社でもやってみよう」と思えるくらいの小さな、細かい取り組みにフォーカスした記事にしていきたいと思います。
第3回目のゲストは、、、
第3回目には、株式会社マスナガの代表取締役 森 弘国さんにご登場いただきました。
<企業概要>
熊本市南区江越にて、機械工具の販売されています。1949年に増永金次郎氏が創業し、73年の歴史がある企業です。今回は3代目として事業承継をされている森社長に、今までの歴史とこれからのビジョンについてお話を聞くことができました。
<従業員数>
役員 4名
社員 15名(1名は産休中)
パート 2名
<岡村との関係>
私が創業してから、「熊本中小企業家同友会」や「熊本創生企業家ネットワーク」などの勉強会に参加してますが、森さんはどちらにも私よりも先に参加されており、先輩会員として色々とお話を聞かせていただくことが増えました。気さくに話をしてくださるので、他の会員さんとの懇親の機会にもなり、非常に感謝しています。
お題:社員の育成に関して取り組んでいること
株式会社マスナガの創業の経緯からお聞かせください。
森 「私の母方の祖父、増永金次郎が1949年に創業しました。『なぜ、会社名が”マスナガ”なのに森さんなの?』とよく聞かれます。笑 私の父、森 弘が2代目の社長として事業承継をしたのが1991年でした。その後、私が3代目として事業承継をしたのが2012年ですね。当時31歳でした。」
岡村 「機械工具やネジ・ボルト類の販売が事業内容ということですが、創業時からそうだったんですか?」
森 「創業当初は手動のバリカンを販売していたそうです。その後、戦後復興の建築需要とともに、バリカンを仕入れていたメーカーが工具メーカーになったのをきっかけに業態を機械工具の販売にシフトしていきました。」
岡村 「では、1階の店舗が売上の全てということなんですか?(それで社員15名って、、、??)」
森 「たしかに、機械工具やネジ・ボルト類の販売は売上の8~9割を占めていますが、ちょっと違うんですよね。もちろん、大工さんや職人さんが店頭に工具や資材を購入しに来られますが、ルート営業しながら工場の製造ラインで使用する部品等を販売したり特注の自動装置なども請け負っています。近年では自動車部品製造の大手工場さん等で装置を納めさせていただいています。まず、工場の製造ラインを設計します。装置を作るとなると当然、部品が必要になるので、それも自社で調達しています。店舗の売上というよりもそういう意味での販売売上が含まれているので、8~9割ということになるんですよ」
将来のビジョンをお聞かせください。
森 「最近2~3年は、当社は機械産業のディレクターであると考えています。例えばネジやモーターなど、一つのものでは成立しないものを作る技術を”要素技術”と言うのですが、日本は要素技術に関しては世界トップクラスだと思います。しかし、我々”機械工具業界”というのは要素技術間での交流がほとんど無く、閉鎖的な業界なんですね。弊社がディレクターとして企業の課題や要望をヒヤリングし、適切な提案をすることで要素技術を自由につなぐハブとなる企業になりたいと考えています」
岡村 「なるほど、確かに顧客側からするとネジ1本ずつ何を選べばいいかなんて判断つかないですよね」
森 「例えばIT企業の中にも、会計ソフトの会社とチャットツールの会社がありますよね? その2社が情報交換しているか、というとどうなんでしょうね。同じ業界だけど他分野って、情報交換が少ない傾向にあると思うんです。その結果、顧客側は”どれを選べばいいのか分からない”という状態になっていると思うんです。特に機械工具業界は専門深化しているため、取捨選択が難しくなってきています。同じように建築資材や機械工具を扱う商社はありますが、会社レベルでディレクションに取り組んでいる競合は無いのでは、と思います」
岡村 「マーケティング業界で考えると、Webのプロモーション会社さん、広告代理店、デザイン会社など様々な分野がありますが、それをCMOに近い立場でサポートできたらいいなと思っていました。当社も、業界が違うだけで似たようなことを考えていたのかもしれません」
森 「ミッションとして『日本を超産業ギルドにする』ということを掲げています。 ”超産業”とは様々な要素技術をつなぎ、一つのものを創り出すエンジニアリングのことを指しています。また、”エンジニアリング”とは、目的に輪郭を与え、実現可能なソリューションを創り出すこと、と定義しています」
ミッション・ビジョンの実現に向けて、どんな取り組みをされていますか?
森 「当社の強みは『仲間づくり』であると考えています。まずは社内で、”理念委員会”を作って、1ヶ月に1度の社内MTGを実施しました。以前は『信頼を愛で結んで、未来を拓く』という経営理念だったのですが、『”おもしろい”をエンジニアリングする』という経営理念を社員と一緒に考えました」
岡村 「私は創業者なので自分で考えましたが、既存の社員さんと一緒に考えていくあたり、承継された方っぽいエピソードですよね。理念委員会のメンバーはどのような方を選ばれたんですか?」
森 「役員3名と、営業チームリーダー、業務アシスタントのチームリーダーです。副文はある程度は私が考えましたよ。」(以下の3文)
おもしろいは、未来の可能性が広がることを意味する
おもしろいは、主体性から生まれる
おもしろいは、伝播させることで大きなエネルギーになる
岡村 「”おもしろい”の意味をちゃんと定義されたんですね。汎用性の高い言葉って個人によって解釈が異なる可能性が高いので、そこを見越した副文にされているあたり、さすが森さん!という感じがします」
森 「”MASUNAGA Style”という行動指針も策定しました。また、現在は会社のブランディングにも取り組んでおり、これも経営幹部を中心とするメンバーでブランディング合宿を行いました。阿蘇の大自然の中で、いつもとは違う環境でじっくり考えることができ、非常に有意義でしたよ」
ミッション・ビジョンの実現に向けた課題はありますか?
森 「これから先は人口減少に伴って、自動化や省人化が進んでいきます。自社においても顧客においても技術者不足になることは分かっているので、そこを解決する必要はあるかと思います。特に、機械工学系に進む学生がそもそも少ないということもあり、採用が難しいのはずっと課題です。」
岡村 「業界自体に流入する人材が増えないと、業界が全体的に高齢化していきますよね」
森 「特に、ファジーな案件は情報共有が難しく、先ほど言ったように要素技術の業界自体が閉鎖的なこともあって、業界全体でも人材育成が進んでいないのが現状です。そこで当社では、機械パーツのショップと、作業ができるファブ施設を創れないかと考えています。要素技術のエンジニアが集まるようなコミュニティになり、学生・会社員問わず集まれるような場所です。優秀な学生は、そこで直接リクルートするなど企業側のメリットも提供でき、業界全体での人材確保にもつながります。質の高い人材を集めることと、それを会社の垣根を超えて育てていくことが大事だと思います」
岡村 「まさに、超産業ギルドですね」
森 「各社の企業努力はもちろん大事ですが、今までのように閉鎖的なままでは結局、人の問題を解決できません。当社の強みは『仲間づくり』ですので、まずはコミュニティづくりに取り組もうと思っています。」
岡村 「今回のお題は『社員の育成に関して取り組んでいること』なのですが、社員の育成だけでなく、”業界の人材育成”に取り組まれている視野の広さにびっくりです。ちなみに、社内で何か取り組んでいることはありませんか?」
森 「人材育成になるかは分かりませんが、案件の情報共有に関してはDXを進めていますね。名刺管理アプリから連絡ツールを連携させて、顧客ベース、案件ベースで見れるようにしています。将来的には会計まで連携を進めたいと思っています。 現在、1階の店舗は熊本県内が商圏となりますが、2階の営業部門(産業機械の課題解決)の商圏は熊本だけではなく、関西や関東にも顧客がいることもあり、社員が個々の得意分野を活かして、最高のパフォーマンスを提供できるようにしていきたいと思っています」
熊本マーケティング研究所に対して一言頂きました。
岡村 「せっかくの機会なので、当社にも何か一言いただけたらと思います」
森 「”マーケティング”というと領域が広くて、相談とか課題がセグメントできていない気がします。あと”マーケティングサポート”ではサービスの対価が”相談料”なのか”作業料”なのかが分かりにくく、依頼がしにくいのではないでしょうか」
岡村 「たしかに、コンサルティング業って胡散臭いイメージがあると思いますし、事業領域を明示した方が潜在顧客には分かりやすいのかもしれませんね」
森 「おそらく、会社を良くしていきたいと思っている人、何かを求めている人っていうのは、”おんぶ”してもらいたい訳じゃないと思うんです。岡村さんの会社は伴走型のサービスということなので、”この部分をお手伝いしますよ”という入口商品があると分かりやすいかもしれないですね」
岡村 「”研究所”という社名にしたくらいなので、マーケティングのことは一通り、全方位的な理解が必要だとは思っています。しかし、それだと分かりにくいのでは?と思っていて、実は近々、入口となるサービスをローンチする予定なんです。(しかもTAS ARTさんにご協力していただいています) 向かおうとしていた方向性と同じようなアドバイスを頂けて、間違ってないかも!という自信が持てました。本当にありがとうございました」
感想
インタビューをしながら、まずは私が機械工具や産業機械の分野に明るくないので、自社の説明だけではなく業界に対する説明からして頂いたのですが、例え話を交えながらで非常に分かりやすい説明でした。自社をどのように良くしていくかだけではなく、業界全体が地盤沈下を起こさないように考えられているビジョンやミッションを聞くことができ、非常に勉強になりました。また、その視野の広さってどのようにして身に着けた(そういう考え方に変わっていったのか)などは、インタビュー後の懇親会で聞こうと思ったのですが、美味しいワインを飲み過ぎたせいで、一切そんな話にはならずに解散してしまったのが痛恨の極みです。余談になりますが、懇親会で行ったお店の常連さんと翌日はキャンプの予定だったんだとか。もしかしたら、会社の強みである”仲間づくり”ってこういうところから始まっているのかな、、、??
最後に、取材当日にまさかのダブルブッキングをかましてしまい、開始時間が30分遅れても笑顔で対応してくださった森さんに感謝して、結びたいと思います。