コラム

Column

蹞訪 ~ベトナムトレーディング株式会社 澤村 友里さん~

知人の社長様へインタビューをさせていただく「蹞訪」 第5回です。

第1回の「乳菓子屋株式会社 佐藤 憲史郎さん」はこちらから

第2回の「株式会社TAS ART 田崎 新二さん」はこちらから

第3回の「株式会社マスナガ 森 弘国さん」はこちらから

第4回の「株式会社アセット 國元 祐介さん」はこちらから

 

「この人の話を聞いてみたい」と思った社長さんへ色々と質問をぶつけさせてもらい、そこから学びを得ていく企画「蹞訪」(きほう)。当社の企業理念でもある「蹞」(ひとあし)は、そういう小さな1歩を大事にしようという想いがありますので、「どうやって事業を成長させたか」というサクセスストーリーよりも、「明日からこれを自社でもやってみよう」と思えるくらいの小さな、細かい取り組みにフォーカスした記事にしていきたいと思います。

 

第5回目のゲストは、、、

第5回目には、ベトナムトレーディング株式会社の代表取締役 澤村 友里さんにご登場いただきました。

 

<企業概要>

熊本市東区戸島西にて、ベトナム人特定技能人材紹介事業をメインに、ベトナムとの輸出入代行や翻訳、ベトナム人への日本語講座などを行われています。後述しますが、日越協同組合という法人の代表理事も務められており、外国人技能実習生の受け入れや教育などの事業も展開されています。今回は、ベトナムトレーディング株式会社と日越協同組合、そしてベトナムの現地法人(有限会社ベトナムトレーディング)を含めたベトナムトレーディンググループのビジョンや教育についてお話をお伺いしました。

 

<従業員数>

ベトナムトレーディング株式会社

役員 1名

社員 8名

パート 2名

 

日越協同組合

理事 5名

社員 4名

パート 1名

 

有限会社ベトナムトレーディング

役員 2名

社員 4名

 

<岡村との関係>

私が創業してから参加している「熊本創生企業家ネットワーク(現・熊本イノベーションベース)」でご縁がありました。また、当時は全く面識はありませんでしたが、私が大学4年生の時の1年生ということで、同じ大学に通っていた時期もあったようです。前職の時に、学生起業している面白い子がいるよ、と職場の方に軽く紹介されたことがあったので、私が一方的になんとなく知っていた、という感じです。第1回~第4回の蹞訪では、ご協力いただいた社長さんが全て男性だったこともあり、女性経営者の話も聞いてみたいな、と思っているタイミングでご縁ありまして、ご協力いただくことになりました。

 

 

お題:社員の育成に関して取り組んでいること

まずは創業の経緯から、お聞かせください。

澤村 「起業したのは2011年です。高校3年生の時から社長になりたいと思っていて、外資系の企業で何年か経験を積んで将来的には独立するのかな~、とザックリ考えていました。でも、大学で経済や経営を学んでみて思ったのが『これって就職してから活かせる!』というイメージが湧かなかったんですよね。普通のバイトをするより自分で事業をした方が稼げそう、というのもあり、大学2年生の時に起業しました。月に50万くらい稼ぎたいなぁ~って 笑」

岡村 「いや、発想が凄いですよね。同じ大学に通っていたとは思えない 笑  高校3年生のときに社長になろうと思ったキッカケって何かあったんですか?」

澤村 「元々は、国連の通訳になるのが夢でした。しかし、高校の先生に『あなたは自分の言葉を発信する仕事をした方が良いよ』と言われたことから、自分の想いを形にするためには社長になろう!と思いました。当時はベトナム語を通訳する人がいないということで、高校3年生の時から裁判の際にベトナム語の通訳をする仕事をしてました。三重、名古屋、福岡など全国各地で仕事をした経験も大きかったと思います。」

岡村 「ほう、ということは起業も通訳関係のお仕事で??」

澤村 「私は12歳までベトナムにいて、中学1年生の時に玉名に来たのですが、家の近くにある”つかさの湯”さんの敷地内にあるテナントでパートさんを5人くらい雇って、雑貨屋さんとして個人事業として起業しました。ベトナムで安く雑貨を買い付けて、販売すれば儲かる、くらいの考えですよ。笑  しかし長くは続かなくて、大学卒業前に、1年半でやめました。店舗の家賃や人件費など、固定費がかかるビジネスで月に50万円は稼げませんでした。」

岡村 「まあ、そんなに甘くはないですよね、、、 ちなみに、個人事業だと開業届を出したりとか、確定申告したりとか、最初は分からないことだらけだったと思うのですが、そのあたりの不安とかはなかったんですか?」

澤村 「もちろん、その辺の知識はなかったですし、何なら今も苦手ですよ笑  でも、そんなことは何も考えずに起業しましたね~。その後、大学を卒業してから2013年にベトナムトレーディング株式会社を立ち上げました。もう、固定費のかからないビジネスをやろうと思って、自宅を事務所にして、自分ができる『ベトナムとの輸出入サポート』と『ベトナム語の通訳や翻訳』などが主な事業です。」

 

現在の事業についてお聞かせください。

澤村 「現在は、2016年に設立した日越協同組合で技能実習生の受け入れ事業がメインです。きっかけは、とある専門学校に来ているベトナム人留学生に向けた日本語講座に講師として行っていた時の出来事です。留学ビザでは1週間に28時間以内の労働が限度なのですが、留学しているベトナム人はダブルワークやトリプルワークをしないと学費を稼げませんでした。となると、雇う側も違法就労は承知の上で低賃金で働かせるんですね。留学という名の出稼ぎが実態で、体を壊したり、事故でなくなったり、失踪したり、という状況が当たり前のように起きていて、お金の為にそこまで、、、とお金が嫌いになりました。」

岡村 「熊本でもそんな事が起きていたなんで、全然知りませんでした。」

澤村 「ベトナム人がちゃんと働ける環境を提供したい、という思いで日越協同組合を設立して、技能実習生の受け入れを開始しました。実績づくりとライセンスの申請でそれぞれ1年かかったので、設立までに2年かかりました。この時点では、私と社員1名でしたので、すごく大変でしたが、盛和塾での学びが支えになっていました。学生起業した時は生活費や学費を稼ぐことが優先でしたが、日越協同組合を設立するときは、『人の為になるのが先で、利益はあとから付いてくる』という信念でやるようになりましたね。」

岡村 「現在は、ベトナム人の人材を企業に紹介する、いわゆる人材紹介業になるんでしょうか?」

澤村 「企業と組合でのベトナム人技能実習生の共同受け入れ、という形になっています。ベトナムトレーディンググループでは、仕事のことだけではなく教育に力を入れて、日本での生活をサポートします。前述したように、失踪などが多い業界なので、私たちがベトナム人材のサポートをすることで受け入れ企業側も、技能実習生側もWin‐Winになれるような関係性を維持できるように”監理費”という形で報酬をいただいています。」

 

将来のビジョンをお聞かせください。

澤村 「当社の理念は、『ベトナムと日本の人・モノ・情報をつなぎ、両国の物心両面の幸福を追求すると共に、進歩発展に貢献する架け橋となる』です。日本の労働人口減少に対し、外国人の人材で貢献できないかと考えており、今はその実現の為に事業の土台を作らないといけないと思っています。『つみき事業』という外国人に対する日本語教育の事業に今後は注力していく予定です。グループのミッションとして『日本とベトナムをつなぐ架け橋となり、日越両国の100年先の未来の為に行動する』ということを掲げています。」

岡村 「そのビジョンに対して感じている課題はありますか?」

澤村 「まず、事業の実施に対して人材が足りていません。また、日越協同組合の設立と同時にベトナムトレーディングの売上も増加したので、それに合わせて社員数も増加しました。事業としては成長を感じる反面、ベンチャー企業ならではのダイナミズムが薄れている気もしますね。」

 

ビジョン実現に向けた課題に対し、社員の育成という観点から取り組みをお聞かせください。

澤村 「2013年の創業から、2016年に組合を設立、そして2020年までは売上を上げるためにガムシャラにやっていました。通訳・翻訳は自分しかできない業務なので、現場に入っている際に社員に自分の想いは伝えていましたが、前述の盛和塾にいるメンバーはみなさん経営指針書をお持ちでしたので、当社も2018年~2019年にかけて成文化しました。とはいえ、教育といえば経営方針を成文化して社員に共有しているくらいでしたね。2020年くらいから、社員の教育には力を入れることが出来ていると思います。」

岡村 「2020年から、そのようになったきっかけは何かあったんでしょうか?」

澤村 「通訳や翻訳などの業務に入らなくてよくなったことがきっかけだったと思います。業務のことは私よりも出来る社員に任せていて、私は会社としての『人間教育』を大事にしようと思っています。」

岡村 「具体的にはどのような取り組みをされていますか?」

澤村 「まず、経営理念やスローガンは確認するようにしています。また、9つのクレドに対するフィロソフィー講習をしています。」

ベトナムトレーディンググループ 9つのクレド

①クイックアクション:何事にもスピーディーに取り組み、相手に安心感を与える
②緊張感:1人1人が会社を代表していることを常に意識し、緊張感を持って行動する
③傾聴力:相手のことを理解するために、まずはしっかりと相手の話を聴く
④専門知識:プロフェッショナルであり続けるために、努力し続ける
⑤改善力:常に向上心を持ち、創意工夫を凝らし、日々の仕事を改善していく
⑥礼儀正しく:常に礼儀正しく、丁寧な言動を心掛け、周りの人をポジティブな気持ちにする
⑦チームワーク:お互いに認め合い、メンバー全員が会社を自分の居場所だと感じられるようにする
⑧誇り:この会社のメンバーの一員であることに誇りを持って仕事に取り組む
⑨粘り強さ:たとえ困難に思えたとしても、立ち向かい、どうすれば解決可能かを考え抜く

 

岡村 「3つの視点、というのもありますよね?グループのミッション、経営理念、クレド、3つの視点、、、社員さんは混乱せずに理解できてますか?」

澤村 「3つの視点は朝礼で毎日読みあげるようにしています。たくさんあるので、これ以上は増やさないですが、当社にとっては大事な価値観ですので、社員には共感して欲しいなと思っています。」

3つの視点

①お客様視点:お客様を幸せにするために、お客様の立場に立ち、多面的に考える
②ベトナム人視点:ベトナム人を幸せにするために、ベトナム人の立場に立ち、多面的に考える
③会社視点:私たち自身を幸せにするために、会社の立場に立ち、多面的に考える

 

岡村 「正直、なかなかレベルが高い社員さんじゃないと理解が難しいように感じています。採用ってどうしてますか?」

澤村 「採用は、社員や取引先の紹介か、ハローワークに出している求人がほとんどです。書類選考後、適性テストとリーダーによる一次面接を行います。その後、私が最終面接をして採用、という流れですね。数年前までは面接のみでしたが、会社の向かっていく方向性を定めたときに、ある程度の学習能力というか、知識レベルが無いとミスマッチが起きるな、と感じたので適正テストを導入しました。」

岡村 「最後に、組織作りについてはいかがでしょうか?」

澤村 「人材紹介事業(ベトナム人技能実習生と特定技能の受け入れ)には、リーダーとなって動いてくれる社員や、チーフとして担当部署を任せることのできる人材が育ってきたと思います。事業のアイデアは私が考えますが、リーダーを中心に具体化してもらっています。このようなチームや仕組みを作り、任せていったことで、成長してくれたのかなと思います。」

岡村 「任せる、って難しいですよね~。KMLでも非常に課題だと感じています。ちなみに、リーダーやチーフという呼び方は、なぜそのようにしたのですか?」

澤村 「呼び名に関しては、ディスカッションしましたね。前は役職を付けて呼ぶようにしてましたが、今は社員に権力意識を持ってほしくないので、名前+さん呼びがほとんどです。任せる、ということに関してはかなり意識をしていて、『任せれる人を見つけるのが社長の仕事』と思っています。私は目的だけ伝えて細かい指示はせず、結果だけで見るようにしています。そのせいか社内でも、『これは社長に聞くのではなく自分達で考えて提案してみよう』という空気感があるかなと思います。業務に入らなくなった分、現場の感覚と乖離しないように毎週金曜日は会議の日にして、各リーダーやチーフとの情報交換をしています。」

 

熊本マーケティング研究所に対して一言頂きました。

岡村 「せっかくの機会なので、当社にも何か一言いただけたらと思います」

澤村 「熊本創生企業家ネットワークで何度かお会いしていましたが、今回の取材を通じて『なんかもったないな』と思いました。来られているのは社長さんばかりですし、お客さんになりそうな方が多いのに熊本マーケティング研究所さんの業務内容を知らない人が多いように思います。マーケティングって何をしているんですか?と聞いて、いいな~と思うようなサービスを提供されているのに、、、」

岡村 「(別件でお伺いした時に弊社サービスのLaboutの説明をさせていただいたいました) たしかに、興味を持っていただいたので説明させてもらって、その時に初めて『そんなことやってたんですね』って話になりましたもんね。他の方からもよく言われます、、、」

澤村 「マーケティングって領域が広いので、何をやっているかが分かりにくいと伝わらなくて、そこがもったいないな、と思った理由です。言い切ることも大事かもしれませんよ。事業内だけじゃなく、私たちの共通言語は『私たちは日本一ベトナム人思いの会社です』と伝えるだけでも思いが伝わりますしね」

岡村 「ありがとうございます。なんかマーケティング会社としてスマートにというか、クレバーにというか、ちょっと親しみにくい要素が出ているのかもしれませんね。弊社が貢献したいと考えている中小企業の経営者には、まず”寄り添う姿勢”が大切ですし、今後は『蹞(ひとあし)=企業の1歩ずつの前進』をサポートする会社です!と思いを伝えてみるようにしようかと思います。」

 

感想

取材開始直後は、学生起業されていたという話を聞いて、何も考えずに大学生活を送っていた自分を殴りたい気持ちがありましたが、話を聞いていると、雑貨屋さんの失敗や、ベトナム人留学生に対して悔しい経験をされて、今の事業展開に繋げられている澤村さんの経営者としてのポテンシャルを感じずにはいられませんでした。特に、社員共育に関しては「任せることの天才」と言っても過言ではなく、それが会社の文化になりつつあるところに凄さを感じました。小心者かつ貧乏性の私にはなかなかマネできそうにないな、と思いましたが、もしかすると今後の私やKMLの最大の課題なのかもしれません。少しずつ、1歩ずつ、蹞(ひとあし)の姿勢で取り組んでいこうと思います。

最後に、毎度のことながら取材の予定時間をオーバーしていた私の質問に快くお答えいただいた澤村さん、そして社長室の木佐貫さんに感謝して、結びたいと思います。