はじめに
いつもは日経MJで気になった記事を書いていますが、今回は、THE OWNER様主催の小田島春樹(有限会社ゑびや・代表取締役社長/株式会社EBILAB・代表取締役)が登壇した『 創業150年の伊勢老舗食堂を売上6倍・利益80倍に婿社長が推進するデータ活用術』のセミナーについて記事にしていこうと思います。
講演者:小田島春樹氏
有限会社ゑびや・代表取締役社長/株式会社EBILAB・代表取締役
小田島氏は、大学でマーケティングと会計を専攻し、新卒で大手通信企業に入社。人事や営業企画を担当後、2012年に妻の実家が営む「ゑびや」に転職しました。当時のゑびやはそろばんを弾いて経営する昔ながらの食堂でしたが、小田島氏は徹底したデジタルシフトを行い従業員数を増やさず、また新規事業である株式会社EBILABを立ち上げて売上6倍、営業利益80倍まで成長させました。
本日のテーマ
「ゑびや」を継ぐことになった経緯と当時の課題
売上6倍、営業利益80倍を実現した改善策
「ゑびや」課題と対策
コロナ時の対策
今後の「ゑびや」とデータ活用について
「ゑびや」を継ぐことになった経緯と当時の課題
2012年に妻の実家の家業に転職しようと思った経緯は、食堂を縮小していずれ閉業してテナント事業を行うという計画があったとのことです。そのテナント事業を軌道にのせるため、小田島さんは入社したとのことでした。しかしテナント事業に向けて動きましたが上手くいかず、食堂を継続して行わなければいけなくなりました。当時の「ゑびや食堂」は日焼けした食品サンプル、番台のおばちゃんが接客、地元の演歌歌手のグッズ販売など、昭和の大衆食堂のままだったとのことです。その中で、小田島さんはこういう形のお店で、 もっといろんなことはできるんじゃないかなと考えました。例えば、町の通行量を見ても、たくさん人々はいると、 でも、自分たちの店にはなかなか入ってこない。これはもう例えるならば、単純に魚はいっぱいいるのに釣る道具であったりとか、餌が悪いから釣れない状態であった、そこにちゃんと適合する形で、自分たちの店舗を作り替えていけば、売上が上がるという仮説を立てていろんなことに取り組んでいったそうです。
売上6倍、営業利益80倍を実現した改善策
店舗を作り変えるにあたり、通行人が「どんな人が歩いているか」、「どんな人が「ゑびや食堂」を利用しているか」などの調査を行い商品設計、広告などデータを活用して考えました。従来の「ゑびや食堂」は感覚で営業していたため、従業員はデータを活用しての店舗改革についていけずほとんど辞めていったそうです。現在では昔からいる従業員は2名程とのことでした。採用にあたり店舗のビジョンをしめして、納得してくれる人を採用してきたが、今の従業員が定着するまで3回転の入れ替わりが発生したそうです。従業員が定着しない中で、いかに効率化するかを考えていきました。例えば従業員が大量に退職した際に、調理できる従業員が2人しか残らなかったため、出せる料理が限られました。店内調理をなくし、セントラルキッチン化することで店内の調理作業を簡略化しました。その経験の中から従業員を増やさずに利益を上げていくにはどうしたらいいのかを、より追求していったとのことです。たどり着いた答えとして付加価値を上げていくことを徹底していこうと決めました。まず着目したのが客単価です。「ゑびや食堂」に入社した時の客単価は850円でしたが、現在の客単価は2800円と約2.3倍増加しています。単純に値上げしただけではお客様は離れていくので、店舗周辺にいる「ターゲットが何を求めているのかの分析」、「どれぐらいの値段が適切か」のプライシングのチャレンジを徹底的に行ったとのことです。具体的には、客数の減少や、通行量から入店されるお客様のシェアはどれくらい減少しているかを見ていきながら、これくらいの価格帯なら市場が許容してくれるんだなと探りながら商品設計も徹底していきました。以前は大衆食堂でしたが、いろんな高級食材を使ってハレの日に利用するレストランに変えていくことで、付加価値を上げていったとのことです。結果として従業員数を変えずに付加価値を上げたことで売上・利益が何倍にもなりました。
「ゑびや」の課題と対策
「ゑびや食堂」の運営が伊瀬神宮の参拝客に頼っている事業のため以下のリスクがあると考えたそうです。
①南海トラフ大地震などのトラブル
②日本人の人口の減少
今の事業モデルだと継続するのが上記の理由で難しくなる可能性があると考えました。特に伊勢神宮の参拝客については、インバウンドが1番盛り上がっていた2019年でも、外国人の訪問数は全体の2.5%とほぼ日本人しか伊勢神宮を利用してない状況であったため、人口減少によりマーケットが縮小してしまうとデータで判断したそうです。また人口減少による働く人の比率の減少、仕入れ単価の上昇を考えるとリスクはすぐそばにせまっていると危機感がありました。実際にアメリカの賃金上昇率を見ると数年で固定費が倍になると予測しました。要は今までは月30万で10人雇用していたのが、数年後には月60万で10人雇用しないといけない時代がくると考えたとのことです。仕入れ単価の上昇については、価格弾力性を持たせて、仕入れ単価が上がった分を上乗せするのではなく利益があがるように価格を上乗せしたとのことです。
上記のように価格を上げた後に、購買率がどこまで下がるかのデータをとり仕入れ、単価分を値上げするのではなく利益をだせるプライシングに設定していったそうです。また、「ゑびや食堂」の客席は180席あったそうですが、1席当たりの回転率のデータを取ったときに、180席もいらないと分かり、30席の客席を縮小して飲食店の隣で小売店を展開して、1組あたりの客単価上昇をさらに狙ったとのことです。小田島さんの考えのすべてはいかに付加価値を上げるかの1点で考えてたそうです。
このデータに基づいた成功体験から、他の企業にもこのデータ活用は提供できるのではないかと考え株式会社EBILABを立ち上げて「ゑびや食堂」とは違う事業を開始したそうです。
コロナ時の対策
データを活用して店舗運営を行っていたため、その経験を活かしてコロナが蔓延した時でも客数を8%上げたとのことでした。具体的に行ったデータ活用として
・利用客層の変化
コロナ前は40代以上の利用が多かった⇒コロナ後は30代以下の利用が増えた
・商圏の変化
コロナ前は関東周辺からの来店が多かった⇒コロナ後は地元の人の利用が増えている
上記の変化に対応するために、広告のやりかたをデジタルからアナログに変えたそうです。今まで食べログに使用していた広告費などをうちわを作成して地元に配ることや、紙媒体での広告など、アナログな広告で認知を行いました。また、30代以下の利用客が増えたことで、リーズナブルな価格のメニューがある広告を出したり、インスタ映えする商品を打ち出したりと、コロナ前と違う見せ方をしたことでコロナ蔓延の中でも客数を落とすことなく対応できたと語っていました。
今後の「ゑびや」とデジタル活用について
今後はデータ活用とDX化を進めていくことで10人で行っていることを8人で行えるようにする、将来的には5人で行えるようにしていくと語っていました。また、デジタル活用について、現在、中小企業は自社の問題が何なのかを抽出せずにデジタル化、DX化を進めている。「自社の問題が何なのか?」「何を解決したいのか?」を明確にした上でその解決手法がブランディングなのか、教育なのか、オペレーションなのか、経営者のマインドなのかといろんな選択肢がある中で、デジタル化、DX化することが解決できる手法だと判断してから取り組むべきであるとのことです。その意識がなければデジタル化しても上手くはいかないと最後に熱く語っていました!