コラム

Column

時流を読む~賃上げ・値上げについて〜

はじめに

本来は2月の初旬にセミナーレビューを出さないといけませんでしたが、今頃にセミナーレビューを書いています。今度の会議で大目玉を食らうだろうと戦々恐々としている今日のこの頃です。改めまして、熊本マーケティング研究所の高宗です。今回は日経MJで気になった記事を取り上げていきます。(本来は違う題材でしたがまとめるのが難しく断念しました…)

 

賃上げ「ユニクロショック」 最大4割上げ、どうなる春闘

ユニクロの賃上げについては皆さん各メディアで目にされていると思います。政府も賃上げについては重点施策として取り組んでおり、弊社が行っている補助金でも、賃上げ枠などが2022年から新たに出来ました。今回、日経MJでユニクロの賃上げについて柳井会長の想い、各業界に与える影響が取り上げられていたので記事にしていこうと思います。

 

2023年2月6日発行 日経MJより

ユニクロが賃上げした理由について

コロナ禍で内向きになったことで、東京のGHQ(グローバル本社)がJHQ(日本本社)のようになっていることに、危機感を感じて賃上げを決めたそうです。また、日本全体にも色々な面で危機があると語っていました。「稼ぐ人や企業が少ないのに、政府はお金の分配ばかりしている」「賃金が30年間上がっていないのはおかしい。産業が発達せず、金融緩和で株価だけが上がった」など、日本全体において何十年も賃金が上がっていないことに警鐘を発していました。

賃上げでどんな人を採用したいか

「優秀な人と若くて成長する人だ。万年同じことを繰り返す人はいらない」と語っており、また「25歳を過ぎたら、仕事をする上では人間は一緒だと思う」ともおっしゃっていました。日本は欧米に比べて賃金があまりにも低く、中間管理職以上の賃金は、欧米では日本の3~5倍で、都市によっては10倍違うとのことです。日本の賃金の方が発展途上国より低いことがあると記事の中で述べていました。

人件費が増加することで生産性向上が必要ですが、まだ改善余地はあるのでしょうか。

店舗の運営も本部・働き方など、全てで(改善余地が)あるのではないかと柳井会長は感じているとのことです。最近の不満は「物わかりの良い上司が多すぎる」と嘆いていました。世界を相手に競争しているのに、自分の会社内部のことしか考えていない人が多すぎる、会社が大きくなり、上司に忖度(そんたく)する社員が増えきた。「そんな社員は絶対出世しないようにしようと思う」とグローバルカンパニーとしての視点で日本企業の文化についてもダメ出しをしていました。

現状の人件費の水準と日本の賃金について

小売業や繊維産業は世界中で人件費が低く、人材に置いても良い人が来ないため良い商品ができないそうです。給料を上げたら、良い人材が来て、良い商品ができるようになる可能性があると柳井会長は語っていました。また、日本の企業にも苦言を呈しており、「企業や企業のトップが従業員に成長を促していない」、社員も「レールに乗ったかのように、何歳になったら課長で、何歳になったら部長で、最終的には関連子会社に行くことしか考えていない」と日本の終身雇用のあり方に疑問を感じているとのこです。終身雇用でも仕事を一生懸命するなら良いですし、1人、1人が成長して会社全体が成長しているなら問題ないです。しかし、終身雇用で全然成長していない会社が多い、日本は1990年代後半くらいから、ずっとそういわれているのに改善されていないのが現状とのことです。また政府が要求しているベースアップについて「賃金は仕事に対する対価としてもらうものだ。それに見合う仕事がない限り、ベースアップなんてあり得ない」とベースアップは仕事の成果が前提であると語っていました。

 

ユニクロの賃上げによって及ぶ影響について

アパレルや小売りなど業界他社が賃上げを本格的に考える契機になると言われています。賃上げできない企業は人が辞めていき、賃上げの可否で二極化が進むと言われています。また、コスト削減型の経営は限界がきており、コストが上がる中で単価をどう上げていくかが重要になります。ユニクロも機能性の商品を打ち出し、単価を引き上げることで、賃金をインセンティブに使い、モチベーションを上げて価値が高い商品を作ろうとしています。今後、いかに自社の商品やサービスの付加価値を上げて賃上げに繋げていくかが鍵になっていきます。

 

まとめ

今回、ユニクロの賃上げについて記事を書きましたが、現在、原油高高騰を始め、各業界仕入れ価格が高騰しています。現状のままでは利益の減少により賃上げ所ではない企業の方が多いと思います。この苦しい状況のなか、コスト高を価格に反映して、従業員の賃上げまで持っていくには自社の商品、サービスのプロダクト(商品設計)を見直して顧客にどのようなベネフィットを与えることが出来るのか基本に立ち直ることが重要だと思います。マーケティングの基本となる4P(プロダクト、プレイス、プライス、プロモーション)を再度、自社の商品やサービスを考える時期に来ているのではないかと今回の記事を見て改めて思いました。

 

 

 

マクドナルド「値上げの成否」が日本経済の命運を握る訳

2023年1月16日から日本マクドナルドがメニュー価格を改定しました。昨年3月、9月に続き、過去1年で3度目の価格改定になります。そして、その改定後の価格表はなかなか衝撃的でした。約8割の品目が値上げとなった新しい価格表では、ハンバーガー1個が170円になります。1個59円だった時代を知っている人からすればビックリする価格だと思います。この値上げを仕入れ価格高騰の一言で片づけることもできますが、このマクドナルドの価格改定には非常に興味深い企業戦略と、時代の力の存在が感じられます。

デフレの象徴と言われたマクドナルド時代

2000年当時の日本マクドナルドの社長が、「これから時代はデフレに突入する」と宣言して価格の大幅値下げに踏み切ったことがハンバーガー価格の変化の始まりと言われています。一時はデフレ時代の勝ち組ともてはやされたマクドナルドは2002年に赤字転落し、社長交代がおきます。そして2004年に社長に就任した原田泳幸氏は値下げ戦略を見直します。ただこのとき、メニュー全体としては価格を引き上げる一方で、100円マックというお手頃メニューを残すという形になりました。その後、品質面での不祥事が相次ぎ業績を大幅に落とす時期がありましたが、この時がデフレ期の中で客単価が最も低い時期でした。経営陣が変わり、徐々に客単価の見直しを行いましたが、日本マクドナルドの低価格戦略は2019年まで続きました。

価格戦略の変更について

客単価のドラスティックな変化は2020年のコロナ禍で起きました。日本全体で飲食業態が苦境に陥り、客数は頭打ちになるなか、日本マクドナルドはデリバリー客の単価向上が寄与する形で売上高が増加していきました。マクドナルドの低価格戦略は2019年のコロナ禍を境に終わりを告げ、値上げ戦略へと転換しました。下記にグラフを載せていますが、値上げをしたことで日本マクドナルドは成功しているとグラフからは読み取ることができます。2023年の値上げによってデフレ時代を象徴する低価格メニューはマクドナルドの店頭から消え去っていきました。

出典:百年コンサルティング(日本マクドナルドが公表する月次データを参照)

グラフから見て分かりますが2020年以降客数は減少していますが、客単価向上によって売上は伸びています。

 

ビックマックの価格を世界で比べてみると

100円メニューの消滅はあくまで日本マクドナルドの目玉商品の価格が正常に戻ることを意味しています。一方、グローバル経済ではマクドナルドの看板メニューであるビッグマックの価格を比較することで世界経済の指標としてとらえることが出来るといわれています。なぜビッグマックが経済指標になるかというと、ビッグマックには小麦、牛肉、レタスといった原材料価格、調理に使われる電気やガスの価格、その国の人件費水準、そして一等地の不動産価格が織り込まれるので、一国の経済を象徴する経済指標にしやすいとのことです。ビッグマックは昨年9月までは据え置きで390円という時代が長く続いてきました。それが9月、そして今回の2023年1月と段階的に値上がりして新価格は450円になりました。この値上げがもし成功すれば、価格戦略が成功したといえます。390円から450円への値上げでトータルの値上げ幅は15%強になるからです。この値上げは直近の2022年11月の日本の企業物価指数の値上がり幅9.3%を5ポイント以上上回ります。

「賃上げ余力を確保できる」値上げに踏み切った

2023年の日本経済が成長するためには昨今のインフレを上回る賃上げが必要だと言われています。連合は2023年の春闘で「5%程度」の賃上げを求めています。経団連に加盟しているほどの大企業であればなんとかなるかもしれませんが、中小企業となるとなかなかそういうわけにはいきません。そして正社員ではない非正規労働者の場合は、それ以上に賃上げは厳しい状況になります。その中で、日本でも最大級の非正規労働者の雇用者である日本マクドナルドが賃上げ余力を確保できるレベルでの値上げに踏み切ったということが重要な鍵となります。この値上げの成否が2023年の日本経済を左右する可能性があるとのことでした。

まとめ

マクドナルドの値上げについては知っている方も多いと思います。原料費の高騰による値上げにだけでなく賃上げを見越した上での値上げについては非常に興味深い記事でした。また、ビックマックが経済の指標になるというのもすごく面白いと感じました。ちなみにですが、アメリカマクドナルドのビックマックの価格は720円で日本の1.6倍になります。また多少、州や都市によって変わりますがアメリカマクドナルドの時給は2900円とのことで日本との格差に驚きました。

 

最後に

今回、大手企業の賃上げと値上げについて記事にしていきましたが、両方とも2023年の重要なキーワードになってくると思います。特にマクドナルドのように客数は下がったが客単価の増加により売上が上昇したのは参考になるのではないかと思います。少子高齢化が進む中、人材不足は確実にどの業界でも発生します。客数増加よりもいかに付加価値を高めて客単価を上げれるかが重要なのではないかと今回の記事を書きながら感じました。