今回は、マーケティングを勉強したい人に超オススメの本がありますので、そちらを紹介します。
その名も、ずばり
『女子大生、オナホを売る』
かなり尖ったタイトルの本ですが、ネット通販大手の北の達人コーポレーション社長も大絶賛する実践的なマーケティング本です。
表紙の写真はスタバのテーブルで撮影したのですが、私の隣の席に女子大生2名がおしゃべりしていたので、女子大生に見られないようにこっそりと撮影しました。巷では”日本一買いにくいビジネス書”と言われてたりも…。
著者紹介
この本は神山理子(リコピン)さんが著者なのですが、この人の経歴もかなり尖ってます。
明治大学商学部在籍中にオナホ事業にて起業するのですが、中学生時代には自身が匿名で書いていたアメブロが外部サイトでランキング1位になったり、高校時代にホカホカの白米を食べたくて学校に炊飯器と七輪を持ち込んで生鮭を焼いて停学になったり、他の人と違う経験がしたくてマグロ漁船に乗ったり、ヒヨコの仕分けバイトをしたりと行動力のある方です。また20歳のときには、インターン先で音楽メディア運営者となり、業界No.1にしてグロースさせてもいます。
ただし、この著者は下ネタが大の苦手で、聞くだけで吐き気をもよおすほどでした。そんな著者がマーケティングを駆使してオナホ販売を始めて、自社商品がAmazonで売れ筋ランキング4位になり、最後には事業を売却するまでのプロセスが解説されています。
今回紹介する『女子大生、オナホを売る』には、一つの事業を通じてマーケティングの基本と実践手法が書かれていますので、起業したい人・新規事業を開始したい人にとって非常に参考になるビジネス書だと思います。
マインドマップと概要
では、その内容について触れていきたいと思いますが、まず私がビックリしたのは表紙をめくるとすぐにマインドマップが登場したことです。
このマインドマップではインサイトを深掘りするためのものになるのですが、「気持ちいいオ〇ニーをしたい」という観点で「現状」と「顧客が思いつく解決策」がしっかりと深掘りされています。
また本の内容を大きく分けると
①勝算の高い事業を選定するための市場調査とターゲットを設定する『事業領域の選定』
②ユーザーを理解してインサイトを発掘する『顧客理解』
③コンセプトとクリエイティブで勝負できる『商品開発』
④Amazonでどのようにして売ったかの『販売方法』
⑤事業を売却した『ビジネスの出口』
の5部構成になっています。
特に皆さんに見てもらいたいのは①~③になりますので、今回のコラムも①~③に絞って書いていきます。
①事業領域の選定
そもそも著者がオナホをビジネスにするきっかけは、師匠から「オナホ作れば?」と超絶軽いノリで言われたからとのこと。本のタイトルからもわかる通り、女子大生はオナホを使うことは基本的にないので、開発者とペルソナが真逆になっている状態です。
著者は以下の理由で事業領域を選定しました。
1.クリエイティブで勝負が決まる領域
オナホを使っている男友達に片っ端に電話してリサーチした結果、購入基準があるわけでなかったため、パケ買いをしていた。つまりはコンセプトとクリエイティブで優位に立てると確認したわけです。
2.「少し冒険」でき「欲求が深い」領域
高価格帯の商品は慎重に吟味した結果購入されますが、数千円の商品だと買う側もちょっと冒険できます。また三大欲求の一つである性欲に根付いた市場であり、他者承認欲求や自己承認欲求も含めて欲求を満たすことは客単価が上がりやすいという傾向もあります。パケ買いをされるのであれば、「突き抜けたコンセプト」があれば新規参入しても勝負できると考えました。
3.解決されていない重大な悩みが存在する領域
では、なぜ顧客はパケ買いされてきたかですが、インターネット上では商品への口コミを見ることができます。しかし、「気持ちよさ」は人によって異なり、また「あれ」のサイズも人それぞれのためどれだけ口コミの評価がよくても実際に自分で購入して試してみないとわからないのです。そのため、従来のパケ買いでは「気持ちよくなりたい」という需要を満たしているとは言えず、「自分に合う、気持ちのいいオナホが見つからない」という顧客の重大な悩みが存在していました。
4.他社が参入しづらい領域
当時、昔ながらの老舗メーカーが多くwebで販売はしているが、主な販路は小売店という状況で、webマーケティングで圧勝しているメーカーはいませんでした。さらにアダルトグッズはコンプライアンス的に上場企業や上場を目指す企業が参入してこない市場のため、市場規模が大きいわりに競合が少ないのです。
5.製造コストが低く、高価格帯で売りやすい領域
オナホの製造方法は金型に素材を流し込んで固めるだけのシンプルなもので、賞味期限もなく、精密機械のような輸送コストもかかりません。ですので、開発から発売までスピード感を持って展開できます。また日用品と違い、一般的な価格イメージがつきにくいという業界でもあります。実際に、オナホの相場は3,000円前後ですが、著者が開発した商品は5,000円台で販売しました。
6.信頼できる販売チャネルがある領域
商品開発の時点で販売チャネルも考えておく必要があります。自社サイトではなく、Amazonに絞った販売チャネルを想定しました。Amazonではすでに多くの人が会員登録をしていますし、すぐに商品も届くというイメージがあります。また架空請求などの心理的な不安から、アダルト商品は公式サイトでは購入されにくいものです。ちなみに、yahooショッピングや楽天市場ではオナホの出品が規約違反になるそうです。
7.定番ブランドが存在していない領域
オナホといえば、TENGAが有名です。使ったことがない人でも耳にしたことがある人は多いのではないでしょうか。オナホ=TENGAと認識されるくらいブランド力もあります。しかし、TENGAのメイン商品は「使い捨てオナホ」なのに対して、オナホ市場では「使い捨て」ではなく、「洗って何度も繰り返し使える」商品のシェアが断然多いのです。オナホを初めて使う人やライトユーザーは使い捨てを使いますが、ヘビーユーザーにとって使い捨てはコスパが悪いと言えます。
②顧客理解
マーケティング用語に『インサイト』というものがあります。これは、顧客や消費者自身が気づいていない潜在的な欲求や心理を指します。『良いコンセプト』というのは『良いインサイトに突き刺さっている』ということになります。
顧客の気持ちを、顧客以上に理解し、彼らすらも気づいていない悩みを代わりに見つけることが『インサイトを発掘』するということになります。『彼らすら気づいていない悩みに対して、”先回りして解決策を提供する”』ことがコンセプトであり、事業になっていきます。
著者は顧客の本音を聞くために1対1のインタビューを行い、インサイトを発掘しました。当然、ただインタビューをすればいいというわけでもなく、対象者と共通言語で話せるように事前に世界観を理解しておく必要があります。例えば、『界隈あるある』がなんなのかを把握するなどです。インタビューでよい回答を引き出すためには、『良い質問』をすべきで、そのためには最低限、ターゲット層と同じだけの情報を持ち合わせておかなければなりません。
著者も時間が許す限り、当時流行していた商品を片っ端からリサーチしています。『世界一オナホに詳しい人間』になることを目指してリサーチした結果、様々な切り口でカテゴリー分けできるようになり、みんなが何を優先しているのか、購入層にどのような特徴があるのかが自然とわかるレベルまで情報をインプットしたそうです。
ちなみに一例ですが、オナホのカテゴリーとしては
・使い捨てタイプと、洗って繰り返し使えるタイプ
・硬めタイプと、やわらかめタイプ
・アニメパッケージと、AV女優パッケージ
というように分けることができるそうです。
また彼らが普段発信している情報を得るために、2chのスレッド、Amazonの口コミ、X(旧twitter)などからも情報を収集した結果、
・現在パートナーがおらず、手でのマスターベーションに飽きてオナホを使い始めた
・ヘビーユーザー界隈ではオナホを使えば使うほど素材が劣化し柔らかくなるのが逆に気持ちいいという『覚醒』現象が認知されている
というかなりマニアックな傾向も知ることができました。
事前リサーチができると、次は対象者を探してインタビューです。
SNSやマッチングアプリを使ってご飯を奢る代わりに話を聞いたり、男友達に既存のオナホ100個を送り付けてすべてを使用してもらい「どれが良いか」「なぜ良かったか」などを言語化してもらったり、使っているところを電話で実況してもらったりと徹底的に顧客の本音を聞いています。インタビューの作法やコツについては本書に詳しく書かれていますので、インタビューの部分だけでも読んでもらえると勉強になると思います。
③商品開発
インタビューの中から様々なインサイトを見つけ、その中から『まだ解決されていない重大な悩み』を選び、未解決かつ深刻度の高いインサイトを検討した結果、
・自分のピッタリのオナホの選び方がわからない
・洗って使っているうちにすぐに壊れてしまいコスパが悪い
・オナホユーザー界隈では使用を繰り返すと素材が劣化して気持ちよくなる『覚醒』という伝説的な現象がある
などの情報をヒントに開発された商品がこちら!!
通称『育てるオナホ』
「使えば使うほど素材が形状変化して自分のモノに馴染む育成型オナホール」というコンセプトの中に、「どんな人でも、まずこのオナホールを買えば間違いない」「育てる前提のため、長く使える」という意味も込められているそうです。
良いコンセプトとは?
著書では「良いコンセプト」を【性質要件】と【表現要件】に分けて解説しています。
【性質要件】
・ターゲット顧客がまだ解決していない悩みを解決できるもの
・同じコンセプトで売り出している商品がまだ市場に存在していないこと
【表現要件】
・その商品が持つ最大の特徴と、それによるユーザーベネフィットがすぐにわかること
・1文で表現できること(端的であること)
なのでコンセプトの表現はかっこよくなくてもいいので、『一言で商品情報が伝わることが最優先』となります。
著者は商品コンセプトを商品名にも込めました。他の商品にない、その商品最大の強みを盛り込んでいます。
また、既存の競合商品と差別化するために『違うパターン』でインパクトを持たせています。既存の競合商品はカタカナ表記が多かったので、四字熟語のような商品名にすることで、競合商品に埋もれない工夫をしています。
さらに、Amazonで販売することを想定した商品設計になっているので、パッケージにキャッチコピーをデカデカと入れています。Amazonでは商品のサムネイル画像に文字を入れることが規約違反になるため、あらかじめ商品パッケージにキャッチコピーを大きく表記することでAmazonの規約違反にならないようにしてあるのです。
まとめ
本書は、リサーチ・ターゲット設定・インサイト発掘・コンセプト設計・商品開発が書かれており、今回のコラムで書いていないAmazonD2Cの方法や事業売却についてと、一人の女子大生がマーケティングを通じてどのように事業を進めていったかが書かれている本ですので、マーケティングを学びたい人や新規事業を始めたい人にとっては参考にできる部分もたくさんあるのでぜひ読んでもらいたいです。(3時間くらいで読み終えることができるくらいの内容です)