はじめに
熊本マーケティング研究所の高宗将(たかむね すすむ)です!今月も日経MJのコラムとなります。今回は、タピオカブームで有名になった「ゴンチャ」の新たな取り組みについて書いていきます。また、前回同様、自分なりの目線を入れた所感も記載していますので、お楽しみください。
ブームに依存しないブランド力の構築:ゴンチャの成功戦略
2018年頃、日本で女子高生を中心に巻き起こったタピオカドリンクブームは、瞬く間に全国へ広がり、街中のカフェやドリンクスタンドで見かけるようになりました。そのブームを牽引した一つのブランドが、台湾発のティーカフェチェーン「ゴンチャ」でした。しかし、ブームが過ぎ去り、多くのタピオカドリンク店舗が閉店していく中、ゴンチャは今なお成長を続けています。その理由は、単なるブームに依存しない、持続可能なマーケティング戦略にあります。また、マーケティング戦略の根底にあるのは、ゴンチャのミッションではないかと思います。
ゴンチャのミッション:ゴンチャジャパンWebサイトより引用
マーケティング戦略の転換と再定位
ゴンチャは2024年に大規模なマーケティング戦略の転換を図りました。ブームの沈静化を見越し、ブランドの再定位を試みたのです。特に注目すべきは、ティーカフェとしての認知向上を図ることです。タピオカドリンクを象徴する「パール」に依存せず、多様なティーメニューとそのカスタマイズ可能性を強調し、ユーザーに新たな価値を提供しています。これは、「物語」を通じたブランディング戦略に他なりません。この戦略の一環として、期間限定メニューの導入と、NiziUとのコラボレーションキャンペーンが行われました。新しい出会いの季節である春に、友人とともに長時間過ごすシーンを想定したキャンペーンは、若年層に大きな共感を呼び、24年3月の売上を前年同月比1.7倍にまで押し上げました。単なる商品提供ではなく、ユーザーの生活や感情に寄り添った「物語」を作り上げたことが成功の鍵となりました。
将目線で読み解く
ブランディングとは、ターゲットユーザーに自社がどのような存在であるかを認識してもらうことが重要です。以前のゴンチャは「ゴンチャ=タピオカが飲める場所」と認識されていましたが、現在では「ゴンチャ=ティータイムを楽しむ場所」としてブランディング戦略を変更しました。その戦略に合わせて、商品設計を変更し、ターゲットに「ティータイムを楽しめる場所」として認知してもらうためのプロモーション活動も行っているのではないかと考えられます。
リピーター重視の戦略とターゲット明確化
ゴンチャが特に力を入れているのがリピーターの確保です。ユーザーの約3割が月に1回以上来店し、売上の約9割を支えているというデータからも、その重要性が伺えます。このリピーターを維持し、さらに増やすための戦略として、カスタマイズの余地を持たせたレギュラーメニューの展開が挙げられます。これにより、ユーザーは自分の好みに合わせてオリジナルのティーを楽しむことができ、一度訪れた顧客が再び訪れる動機を提供しています。また、ゴンチャはターゲット層を明確に絞り込んでいます。特に10~29歳の女性に焦点を当て、学割などの施策を通じて若年層のファンを獲得し続けています。30代に入るとカフェへの支出が減少する傾向がある中で、20代以下の女性に継続的にアプローチを続けることで、ライフステージの変化にも対応できる顧客基盤を築いているのです。
ゴンチャのカスタマイズについて:ゴンチャジャパンWebサイトより引用
将目線で読み解く
新規顧客を獲得するのは、リピーターを獲得するのに比べて5倍の労力がかかると言われています。そのため、リピーターをいかに増やすかが重要です。リピーターを増やすには、再来店の動機を提供することが大切ですが、カスタマイズという、「顧客が自分好みの商品を楽しみたい」というニーズを提供しているのが、優れた点ではないかと思います。また、ターゲットを明確にすることで、再来店のきっかけとなる施策を打ちやすくなります。幅広い層をターゲットにしている企業をよく耳にしますが、ターゲットが明確でないと、有効な施策を打てず、効果検証も曖昧になることがあります。ターゲットを明確にすることは、自社の戦略をどう進めていくかにおいて、非常に重要です。
店舗拡大とペットボトル展開による市場拡大
ゴンチャは地理的な店舗拡大にも力を入れています。現在、全国に約160店舗を展開していますが、まだ未出店のエリアが多く存在します。これを補完するために、キリンビバレッジとの提携によるペットボトル飲料の展開が進められています。このペットボトル商品は、全国のセブンイレブンで販売され、店舗がない地域のユーザーとも接点を持つことができ、ゴンチャブランドの認知拡大に寄与しています。
将目線で読み解く
自社の商品をどのようなチャネル(場所)で販売し、顧客接点を築いていくかも重要です。ゴンチャはマルチチャネル戦略を活用して、顧客との接点数を増やし、販売機会の増加を狙っています。また、店舗を展開していない地域に早期から顧客接点を持つことで、店舗を出した際に既に認知されているため、スタートダッシュを図ることができます。売上拡大や売上減少に悩んでいる際には、自社のチャネル戦略(販売場所)を見直すことも重要です。
ブランドの持続可能性と従業員エンゲージメント
ゴンチャの成功は、単に消費者に対する戦略だけでなく、従業員へのアプローチにもあります。クルーに対しても毎月NPS(ネット・プロモーター・スコア)調査を行い、ブランドへの忠誠心を高める施策を実施しています。クルーがゴンチャの価値を理解し、顧客に自信を持って勧めることで、ブランド全体のエンゲージメントが向上し、それが最終的な売上にもつながります。
将目線で読み解く
ブランディングを行う上で重要なのは、いかにインナーブランディングを徹底するかです。例えば、代表が富裕層に対して「●●と思ってほしい」と考えていても、実際に顧客と接するのは従業員です。従業員が自社のブランディングを理解していなければ、その価値を顧客に伝えることはできません。インナーブランディング教育をおざなりにしている企業は多いですが、ゴンチャはそれを徹底することで、顧客にブランド価値が伝わり、売上にもつながっているのだと思います。
まとめ
ゴンチャがタピオカブーム後も成長を続けているのは、ブームに依存しない持続可能なマーケティング戦略と、顧客と従業員の双方に対する緻密なアプローチにあります。ターゲット層を明確にし、商品ではなく「物語」を通じてブランド価値を高めることで、長期的な成長を実現しています。このような戦略は、他のブランドや企業にとっても多くの示唆を与えるものではないかと思います。顧客の心をつかむためには、単なる商品提供を超えた付加価値が不可欠であることを、ゴンチャの事例が示しているのではないかと考えます。
最後に
今回はゴンチャの事例から、マーケティング戦略やブランディングについてのコラムを書かせていただきました。今回の事例を簡単に言うと、「自社の立ち位置をどうするか」「ターゲットを誰にするか」などが重要なポイントではないかと思います。これを考える上で、マーケティングのフレームワークであるSTP分析が役立ちます。ちょうど9月の月例勉強会では、STP分析をテーマに開催いたしますので、このコラムを読んで興味を持った方はぜひご参加ください。ちなみに、講師は私が務めさせていただきます。皆さんに理解しやすいように創意工夫をしておりますので、楽しみにしていただければと思います。