最近、よく「マウンティング」という言葉を聞くことが増えたように感じます。
SNSをはじめとするインターネット上や、友だち同士や会社内での日常会話に至るまで、世の中はマウンティング合戦になっていると言っても過言ではありません。
Wikipediaには「マウンティング」について、このように書かれています。
人間同士の会話で相手よりも優位だと示そうとする言動や態度。マウントを取る。霊長類が社会的順位を確認するための交尾の体勢であるマウンティングから転じた意味で、漫画家の瀧波ユカリが2013年に紹介し、エッセイストの犬山紙子との2014年の共著により広まった。
「マウンティング」という言葉が広がって10年余りしか経っていませんが、そんな「マウンティング」をうまく活用すれば人間関係だけでなく、ビジネスも豊かになります。今回は、そんな内容が書かれている「人生が整うマウンティング大全」という本をご紹介します。
人生が整うマウンティング大全
著者は3万以上の事例を収集・分析してきたマウンティング研究家のマウンティングポリス氏。
ビジネスパーソンとして日々の実務に取り組む中で、人間社会におけるマウンティングの重要性に気づいて以来、我が国のおける「マウンティングリテラシー」の向上につとめるべく、発信活動に取り組んでいるとのこと。
「80億総マウント社会」を力強く生き抜いていくためのヒントとなるような書籍です。
まずはマウントのパターンをいくつかご紹介します。
グローバルマウント
海外留学や海外在住歴といったグローバルな要素を用いて自身の優位性をアピールする行為です。グローバルマウントを展開する人の多くは「世界では~」「国際的に見ると~」など実際には存在していないグローバル基準を作り出し、「自分は世界を知っているぞ」と自慢する傾向があります。
≪具体例≫
『申し訳ありません。その日はあいにくのニューヨーク出張でして、同窓会に参加することができません。』
解説:イベントに参加できない理由として「ニューヨーク出張」を挙げ、自身のグローバルな活躍ぶりを周囲に見せつけています。
『日本の冬の寒さが苦手で、逃げるようにバルセロナへの移住を決めました。寒さに強い人が本当にうらやましいです。』
解説:日本の寒さが苦手というカジュアルな理由で海外移住を決めたことを述べ、自身が経済に恵まれた立場にあることをほのめかしています。
学歴マウント
自分が高学歴であることを自慢したり、反対に相手の学歴が低いことを貶したりする行為です。学歴マウントの材料としては、出身大学が用いられることが多いです。「私は学歴を気にしない」と強調する人がいる中、そういう人ほどじつは学歴を気にしていたり、本人もかなりの高学歴だったりします。
≪具体例≫
『もともと音大志望でしたが、親に言われて仕方なく東大を受験することにしたんです。』
解説:東大に合格する能力を持っているだけでなく、芸術の分野においても優れた才能を持っていることをアピールしています。
『クイズ番組でよく聞くMENSAの試験に合格しました。今度、オフ会に潜入してみようと思います。』
解説:MENSAの入会試験に合格したことを示し、自身のIQが高いことを周囲に見せつけています。
教養マウント
教養水準の高さを示すことで、いかに自分が知的な人物かをアピールする行為です。自分にはこんな教養があるぞと自慢し、持ち前の知識をひけらかすことで他人よりも優位な立場にあることを見せつける傾向があります。
≪具体例≫
『ブルージャイアント、なかなか良い映画でした。ジャズをあまり知らないという人たちにもぜひ見てほしいな。』
解説:ジャズをテーマとする映画作品をオススメすることで、自分がジャズに精通していることをさりげなく示しています。
『これはルネサンス時代の作品です。この画家はあまり知られていませんが、非常に重要な役割を果たしていたんです。』
解説:ごく一部の人しか知らないような歴史上のマニアックな画家に関する知識を披露し、アートに精通している自分の姿を強調しています。
達観マウント
物質的な価値観から脱却し、達観の境地に至ったことをアピールすることで、自身の精神的優位性をアピールする行為です。達観マウントを展開する人の多くは「自分はすべてを知っているぞ」と言わんばかりに世の中を俯瞰した感を見せつけ、冷笑的で悟った風の発言をしますが、実際には「達観した賢者な自分を認めてほしい」という欲求が透けて見えることが多いです。
≪具体例≫
『若い頃はブランド品を買いまくっていたけれど、今は家族との幸せな関係性だけで十分。充足感に包まれる日々に感謝。』
解説:世俗的な価値観から脱却し自由になったことをアピールし、精神的な充足を手に入れた自分の姿を強調しています。
『屋久島の縄文杉を見たとき、自分のちっぽけさに気づいて、会社を辞めることを決意したんです。』
解説:屋久島の縄文杉を見たことで自身の人生観が変わり、人生における重要な決断を下すことにつながったことをSNSで投稿します。
虎の威を借るマウント
権威性の高い存在との関係性を示すことによって、自身の価値をアピールする行為です。権威ある組織や団体に所属したり近い関係にあることをアピールすることによって、自分自身が世間から高く評価される人物であることを示そうとします。
≪具体例≫
『申し訳ありません。自民党から呼び出しをくらってしまいまして、お先に失礼させて頂きます。』
解説:会食の最中に自民党の議員から呼び出されたことを明らかにし、自分が特別な立場にあることを示唆します。
『ゴールドマン・サックス時代の上司が教えてくれたのは、徹底したプロフェッショナル意識と顧客本位の姿勢でした。』
解説:ゴールドマン・サックス出身であることを会話の中で自然にほのめかし、自身の経歴をさりげなくアピールしています。
武器としてのマウンティング術
通常のマウンティングは、自身の能力や地位を誇示するために行われることが多く、だれもがその背景にある意図を容易に理解できます。しかし、一見するとそれがマウンティングであるとわかりづらい「ステルスマウンティング」を活用することで自身の能力や地位を自然な形で相手に対して示すことができます。マウンティングをするなら「ステルスマウンティング」をおススメすると著者は述べています。「ステルスマウンティング」の事例もいくつか紹介します。
自虐マウンティング
自分を卑下する言動を通じて、相手に対する優位性をアピールするコミュニケーション手法です。一見すると自虐的な態度を取っているように見えますが、実際にはそれを通じて自身のほうが立場的に上であることを示そうとしています。
≪具体例≫
『2日で23ミーティング。会議ばかりで自由な時間が全然ない。部下が15人にもなると定例の1on1も増えるし、自分の処理能力の低さが本当に嫌になる。みなさんはどうやって対処されていますか?』
解説:自分の処理能力の低さを自虐気味に嘆きながら、社内の人々から頼りにされている自身の姿をうまくアピールしている。マネジメントしている部下の人数の多さをさりげなく見せつけている点も隠れたポイントです。
感謝マウンティング
相手に感謝している素振りを見せつつ、自身の優位性をさりげなく見せつけるコミュニケーション手法です。感謝の要素を付け加えるだけでマウント感をうまくカモフラージュすることができるため、マウンティング初級者に好まれる傾向があります。
≪具体例≫
『奥さんに言われて気づきましたが、前職のマッキンゼーの最終出社日から早1年。超絶激務の大変な世界ではありましたが、最後は拍手で送り出してくれる温かさもある素晴らしい会社でした。育ててくれた上司や同僚に感謝したいです』
解説:自分を育ててくれた前職の上司や同僚に感謝の意を示しつつ、世界屈指の名門企業マッキンゼー出身であることをさりげなくアピールすることに成功している。愛妻家であることを匂わせている点も優れたポイントです。
困ったマウンティング
困った感じを出しつつ、自分が他人よりも優位な立場にあることをアピールするコミュニケーション手法です。こちらもマウンティングしている事実をうまくカモフラージュすることができ、マウンティング上級者に好まれる傾向があります。
≪具体例≫
『インド人の英語が全然聞き取れなくて困っています。だれか通訳をお願いできないでしょうか。切実に悩んでいます・・・』
解説:インド人特有のアクセントの英語が聞き取れなくて困っていると語りつつ、国際的な職場で働いている自分の立場をさりげなくアピールすることに成功しています。
謙虚マウンティング
自分の能力や地位に対して謙遜しているフリを見せつつ、実際には相手に対して優位な立場に立とうとするコミュニケーション手法です。自分自身をあえて過小評価する言動で相手に対して謙虚な印象を与えながら、自身の優れた点をさりげなくアピールできます。
≪具体例≫
『相変わらず吹けば飛ぶような零細企業ですが、無事に3期目を終えました。売上・利益ともに好調で、来期は売上100億円を視野に入れながら、気を引き締めて頑張ってまいります。』
解説:自身が経営する会社のことを「吹けば飛ぶような零細企業」と謙遜気味に語りつつ、「来期は売上100億円を視野に入れながら」とかなりの売上規模に達していることをさりげなくアピールしています。
「マウントする」ではなく、「マウントさせてあげる」
対人コミュニケーションを図る上では、先述のステルスマウンティングが強力な武器となります。一方で、ビジネスシーンにおいて良好な人間関係を構築するうえでは、より重要度の高いスキルがあります。それは「マウントさせてあげて、相手のメンツを立てることで、自分の味方になってもらう」方法です。「マウントさせてあげる」ことによって、十分な敬意を示すことができれば、相手は自分に対してポジティブな印象を抱いてくれるようになります。自分に好意を示してくれる人や自分という存在を丁寧に扱ってくれる人に対しては、攻撃しづらいのです。
適切な形で「マウンディングをさせてあげる」ためのやり方が「マウンティング枕詞」を加えることです。
≪マウンティング枕詞≫
①まさに〇〇さんの仰るとおりでして、
②その点については私もまったく同感です。
③仰ることは論点として極めて重要だと考えております。
④こんなことを〇〇さんの前で申し上げるのは釈迦に説法ですが、
⑤いただいたご指摘を踏まえ、改めて考えなおしていたのですが、
⑦この点については〇〇の専門家である〇〇さんに伺いたいのですが、
⑧〇〇さんの洞察の深さには及ぶべくもありませんが、
⑨〇〇を成功に導いた経験をお持ちの〇〇さんにご意見を伺いたいのですが、
⑩門外漢なもので大変恐縮ですが、
⑪私の理解力が追いついていないせいかもしれませんが
⑫うまくお伝えできておらず恐縮ですが
このように上手に枕詞を加えることで、仕事をスムーズに進める上で社内外の関係者に「味方になってもらう」ことができます。
マウンティングをうまく取り入れている企業
優れた企業の多くは、人間に内在する根源的な「マウンティング欲求」を刺激し、「イケているサービスを使っているイケている自分」というマウンティングエクスペリエンスを提供することで事業成長を実現しています。
Apple
iPhoneやMacbookなどの製品はデザインや機能性だけでなく、所有すること自体がユーザーが他者に対して自身のセンスやトレンドへの感度の高さをアピールすることができます。Appleの新製品をいち早く入手することがある種の有効なマウンティング手段となっているのです。またApple Watchは「腕時計マウンティング」から解放したともいえます。
Starbucks
Starbucksが提供しているものは、職場(学校)・自宅以外の第3の場所(サードプレイス)は有名ですが、「スタバでMacbookをカタカタしながらおしゃれに作業している自分」という体験も提供しています。何を隠そう私も現在、スタバでソイラテを飲みながら、ノートパソコンを立ち上げてカタカタとこのコラムを書いています。
おわりに
人生を好転させるにはマウンティングを理解し、使いこなすことが必要不可欠です。また事業を成功させるには、消費者の「マウンティング欲求」を刺激できる製品・サービス設計も重要です。
これまでの自分は「マウンティングを取る」ことへの意識はありましたが、本書を読んだことで相手に「マウンティングを取らせる」ことに意識を向ける視点を持つことの重要性を実感しました。マウンティングとはビジネスでも人生でも必要なことではないでしょうか。